研究内容

小胞体ストレス応答と統合的ストレス応答とは?

研究概要

タンパク質は生命活動の基盤となる要素であり、タンパク質の恒常性(プロテオスタシス)は、生命活動を維持し、健康を保つために不可欠です。私たちの研究室では、プロテオスタシスに重要な小胞体ストレス応答や統合的ストレス応答といったストレス応答の研究を行なっており、これらを通じて疾患の発症機序の解明や新たな治療法の開発に貢献したいと考えています。


小胞体ストレス応答とは?

高次機能を司るホルモンやレセプターなどの分泌タンパク質や膜タンパク質は、必ず小胞体で合成されます。タンパク質の合成が上手くいかずに、折畳み不全タンパク質が小胞体に蓄積することを小胞体ストレスと呼んでいます。細胞は、小胞体ストレスに適応するために小胞体ストレス応答と呼ばれる機構を持ちます。これは、まず翻訳を抑制し(一時的にタンパク質の合成を止めて小胞体の負担を減らし)、次に小胞体のリモデリングや代謝経路を変化させ(転写誘導により工場としての小胞体の機能を高め)、そして最後にアポトーシス(個体としての生存のためにストレスに適応できない細胞を除外)という具合に、時間・空間的にも究めて精緻で複雑な仕組みで構成されています。この一連の応答は、IRE1、ATF6、PERKといった3つの小胞体膜貫通タンパク質を起点とする3つの細胞内シグナル伝達で制御されています。これまでの研究から小胞体ストレス応答は小胞体でのプロテオスタシスの維持に必須であることがわかっていますが、それ以外にも他の細胞内シグナル伝達や代謝経路と相互作用し、様々な細胞機能に影響を与えることが最近の研究から示唆されています。小胞体ストレス応答の果たす役割については、さらに詳細な研究が必要です


統合的ストレス応答とは?

翻訳開始因子の一つであるeIF2は、細胞内のmRNAからタンパク質合成を開始する際に必要な因子です。eIF2のαサブユニットは、小胞体ストレス、アミノ酸飢餓、ウィルス感染、酸化ストレスなど様々なストレス条件で活性化する4つのeIF2αキナーゼ(PERK、GCN2、PKR、HRI)によってリン酸化されます。eIF2αのリン酸化は、ストレス条件下でタンパク質合成を調節するための重要な制御機構の一つで、統合的ストレス応答を引き起こします。統合的ストレス応答は、タンパク質合成を低下させ、特定のストレス応答遺伝子の翻訳を選択的に増加させることで、ストレスに適応に働くと考えられています。すなわち、eIF2αのリン酸化は、eIF2Bと呼ばれる、eIF2-GDPをeIF2-GTPに再利用に必要なグアニンヌクレオチド交換因子の活性を抑制するために、翻訳に必要な活性型eIF2が減ることで全体的なタンパク質合成速度が低下します。

一方で、ストレス適応や細胞運命決定に重要な役割を果たすATF4やCHOPなど、特定のmRNAの翻訳が促進されます。統合的ストレス応答は、神経変性疾患、がん、炎症性疾患、心血管疾患など、多くの疾患に関与していることが報告されており、今後さらなる研究が期待されています。